高校1年生の化学基礎で学習するイオン結晶。
もっと遡れば、小学校の自由研究などで巨大結晶作りなんかもしたかもしれません。
陽イオンと陰イオンが規則的に配列することによって形成するイオン結晶ですが、その結晶モデルは上位化学(4単位化学)ではNaCl型結晶やCsCl型結晶なども学習します。
もっと言ってしまえば、上位校ではイオンの限界半径比や、第一近接だけでなく、第二近接、第三近接のイオンのついても考える入試問題なども扱っているはずです。
考える上で当たり前のように扱ってしまっている結晶格子ですが、今回、東京大学の研究でその結晶の形成過程を撮影することに成功したという発表がありました。
結晶はどうやってできる?その瞬間を見た!
掲載日は2021年の1月22日。
モデルやSMART-EM(原子分解能単分子実時間電子顕微鏡)画像などもあり、文章を読まなくても、画像だけでも概略はつかめると思います。
研究の概略をざっくり噛み砕いて説明すると
先の例でも出しましたが、巨大結晶はどうやってできるのかというのは、なんとなく陽イオンと陰イオンがうまいこと交互に規則的に配列するからだ、くらいの認識にとどまっていたと思います。
ビーカーやフラスコなどでその結晶ができる過程を解明しようと思っても、いつ、どこで結晶の核が発生して大きくなっていくのかは観察するのは困難です。
ビーカーやフラスコに対して、イオンの大きさはめちゃくちゃ小さいわけですから。
じゃあ、今回はどうやって観察しようとしたかというと、ビーカーやフラスコなどではなく、カーボンナノチューブの中で観察すればいいのではないか、というお話です。
カーボンナノチューブはめちゃくちゃ細い(それこそナノメートルのレベル)わけなので、狭い範囲を観察すれば結晶化の様子が見えるのではないかという論理です。
ホームページでは「ナノ制限空間による結晶化を制御」と記述されていますね。
で、どのように観察したのかというと、電子顕微鏡を使っているわけです。
自分自身も学生時代にTEMやSEMは使ったことがありますが、今回使われているのはSMART-EM(原子分解能単分子実時間電子顕微鏡)ということです。
Single-molecule atomic-resolution real-time electron microscopy の頭文字をとってSMART-EMということになります。
結果をざっくり説明すると
ホームページの後半に写真や動画も掲載されています。
撮影開始から5秒程度で4×6の結晶核が形成されています。
塩化ナトリウムNaCl水溶液ということなので、NaイオンとClイオン(符号省略)がそれぞれ12個ずつということでしょうか(ただしあくまでも2次元のお話ですが)。
動画を見ると、どんどん結晶が大きくなって、チューブの太い方へ移動していく様子も見受けられます。
イオン1粒1粒の様子を観察する、その挙動を観察できる時代になったということになります。
また、結晶化する前の分子集合体(結晶核前駆体)についてもその構造流動性が実証された、ともあります。
今後の展望
いわゆる基礎研究になりますが、今後は様々な応用が考えられます。
冒頭の発表のポイントにもありますが、
結晶の形を制御することで望みの性質を持った結晶を手にすることが可能となり、製薬・材料分野へ革新をもたらすことが期待される。
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2021/7211/
ということで、原子やイオンレベルでの制御が可能になれば、より優れた材料だったり、よりよい薬の開発にもつながるのではないか、ということです。
(薬については「よりよい」とざっくりとした説明にとどめておきますが、薬そのものだけでなく、薬が効率的に届きやすくなったりというような観点もあるのではないでしょうか。)
研究は本当に大変ですし、ナノレベルは目で見えにくいので結構メンタルもやられます(経験者)。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回は、高校の化学でもお世話になるイオン結晶に関連する最先端の研究ということでご紹介しました。
もちろん、小学生の巨大結晶作りなどにも関連してくるので、説明のしかたを工夫して発達段階に応じて説明をしてみてください。
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