いよいよ高校化学の実験についての記事も書いていきます!
今回はその1本目、高校1年生の最初の化学実験に相当します。
今年の高校1年生はどれくらい実験の技術があるのかなぁ
失敗しにくく、生徒の実験の技量もわかるイイ実験があります!
はじめに
高校の化学実験、みなさんはどの程度行っていますか。
私自身は4つの高校(と3つの中学校)で勤務しましたが、実態は学校に応じて様々です。
大学の附属校という利点を生かして徹底的に実験を行う学校もありますし、大学受験に向けて実験そっちのけで問題演習ばかり行う学校で勤務したこともあります。
どちらにもメリット、デメリットはあります。
実験を細かくやる学校の場合、やはり実物に触れているのでイメージがわきやすくなるというメリットはありますし、大学に進学した後も実験に対して抵抗なく取り組む下地を作ることになります。
その反面、演習不足にもなりがちでテストの点数などには反映されにくいというデメリットも存在します。
知識が不足していると、論理的に考える際に大学レベルの内容についていけなくなるということも考えられます。
では演習重視の方がいいのかと言われるとそういうことでもありません。
確かに、計算力や問題を解答する過程で養われる思考力はつきます。
しかし見たこともない物質を脳内の想像で補っているために実感が伴わず、投げ出してしまう生徒も多いです。
このあたりを我々教員がどうやってバランスよく授業やカリキュラムをデザインしていくのか。
全てはそこに関わっている気がします。
今回の実験は高校生になって最初の実験の候補になるためとても大きな意味があると私は考えています。
最初の実験でうまく、キレイに成功すると実感も伴い、強く記憶に残って知識としても定着すると考えていますし、今後の化学の学習に対するモチベーション向上につながります。
この実験の意義
高校生になって最初の実験の候補だからこそ、どうやって成功率を高めて苦手意識をもたせないかが重要になってくると思います。
また自分の学校のカリキュラムと相談だと思いますが、炎色反応の実験などと一緒に行うなど展開パターンはいろいろ考えられると思います。
生徒の実情に合わせて、ということになると思いますが、この硫黄の同素体の実験も炎色反応の実験にしてもガスバーナーを使います。
今後もガスバーナーを使うことはたくさんあるため、ガスバーナーの使い方の確認がてらこの実験を行うというのもありです。
特に高校は受験を経て様々な地域から生徒が集まって来ることが前提になっています(中高一貫校を除く)。
学校によっては中学校時代に実験をあまりやれていない学校もありますので、安全面に配慮しながら生徒の実験の練度を知るための小手調べの実験としてちょうどいいと思います。
実際に実験を行う前に
1つ1つの手順は短く、失敗しても授業時間内にリカバリーのきく実験です。
最初の実験になると思いますので、成功体験を積ませることを意識しています。
生徒の実態をしっかりと把握して、声掛けを行っています。
とにかく安全にガスバーナーを使うこと(火力の調節も含めて)を私は目標としています。
使用する器具と試薬
斜方硫黄をつくるとき
器具
ガスバーナー・マッチ・試験管・試験管立て(今回はろうと台も兼ねる)・ろ紙・ろうと・洗濯バサミ・薬さじ・ルーペ
(以下加熱のしかたに不安がある場合)
アルミカップ・三脚・金網
試薬
硫黄粉末
ゴム状硫黄をつくるとき
器具
ガスバーナー・マッチ・試験管・試験管立て・ビーカー・ピンセット・薬さじ
(あると便利)
ガラス棒
試薬
硫黄粉末・水道水
実験操作とポイント
斜方硫黄をつくるとき
硫黄粉末を試験管に薬さじの小さじで3~4杯とります。
(大さじだとこぼします!)
高校1年生の最初ですから、薬さじでの試薬のとり方も確認させています。
これだけで試薬をこぼす量が圧倒的に減ります。
薬さじに試薬をのせたまま運ぶ距離が長くなると当然こぼすリスクも増えます。
実験後の後片付けの楽さ加減も全然違いますし、お互いにストレスフリーになります。
薬さじに硫黄の粉末を乗せて試験管まで近づけたら、あとは手首の回内運動(ドアノブを回す動き)を使って入れるというのも説明として添えてあげると良いでしょう。
少し薬さじを試験管の中に入れるといいかもしれませんね。
1種類の試薬のみ使用するので、今回の実験についてはこの方法でも良いと思います。
硫黄を加熱する前に必ず事前にろ紙をろうとにセットしておきましょう。
実験の段取りを考えるのも大切です。
そしてここで活躍するのが洗濯バサミです!
通常、ろ紙を使うのはろ過する時ですが、密着させるために純水を使います。
今回はろ過をするわけではなくて、あくまでも受け皿として使うだけなので、ろ紙がろうとに密着しません。
そこで強制的に洗濯バサミを使って抑える、というのが地味なポイントだったりします。
ろ紙のセット後は試験管内の硫黄を加熱していきます。
加熱の加減としては、すぐに融けて液体になります。
まだ黄色い液体のうちにろ紙に注ぐのですが、生徒の様子を見ているとろ紙に滑らせるように注ぎ込むことがあります。
使用する薬品の量を減らしていますので、ろ紙の中心に向かって注ぐようにアドバイスしましょう。
そして、ある程度冷えるの待つのですが、待ちすぎるとうまくいきません。
表面が固まり始めたくらいのタイミングでろ紙をろうとから外して開かせましょう。
待ちすぎると斜方硫黄の針状結晶にならず、塊状になってしまいます!
針状結晶の確認は、場合によってはルーペを使用したほうがいいでしょう。
この操作だけであればそんなに時間はかからないため、失敗してしまった班に対しては何度かやり直すことも可能です。
授業時間内でもその余裕は十分にできる実験内容です。
なお、硫黄は本当に数秒で融けます。
そして褐色に変色し始めるのも早いです。
そのため、火加減に自信が無い場合は三脚と金網を使用して穏やかに加熱させましょう。
また、試験管バサミの扱いに不慣れな場合はアルミカップをピンセットで掴むというのもあります。
どうしても試験管バサミは慌てていると誤ってハサミの部分を握ってしまい、試験管を落としてしまうこともありますので。
一点だけ、アルミカップを使用する場合に注意点があります。
火力が強すぎる場合には硫黄に火が直接燃え移る場合があります。
そして硫黄の燃焼は炎が見えにくく気づきにくい欠点があります。
二酸化硫黄が発生するので注意しましょう。
なお、アルミカップを使用する場合は少し硫黄の量を増やしたほうがいいかもしれません。
理由は注ぎ込むときに垂れる距離が長くなり、流れている間に冷えて固まってしまうという可能性が増すからです。
ろ紙を広げたときにキレイに針状結晶になったときの生徒たちの感動っぷりはなかなか良いですよ!
ゴム状硫黄をつくるとき
こちらは必ず試験管を使いましょう。
試験管に小さじで6~7杯ほど硫黄粉末を入れます。
そしてガスバーナーで加熱していきます。
先程の斜方硫黄をつくるときは黄色い液体になったときにろ紙に注ぎましたが、ゴム状硫黄の場合は更に加熱します。
次第に褐色の液体になってきます。
ここが失敗するポイントで、ここで慌てて注いでしまうとうまくいきません。
そこで以下のような説明を事前に行ってください。
褐色に変化した後、一度流動性が失われます。
しかし、まだまだ加熱を続けていくと再び流動性を帯びてきます。
ここまで確認をしてから、水道水を入れたビーカーに注ぎ込みましょう。
水面に浮いてしまうこともありますが、ガラス棒を使ってかき混ぜてもいいと思います。
冷えた後は弾性を確かめましょう。
引っ張ればゴムのようにある程度のびます。
こちらの実験のポイントは以下の通りです。
仮に褐色になってすぐにビーカーに注ぎ込むとどうなってしまうかというと、褐色の硬い硫黄の結晶になってしまいます。
弾性は全くありません。
単斜硫黄と斜方硫黄の結晶はS8分子ですが、この結晶が加熱によってしっかり壊されていないことが原因です。
見た目として色だけ変わっていますが、ゴム状硫黄にするためにはしっかり加熱してこの結晶を壊す必要があります。
その目安として今回挙げているのが流動性ということになります。
その他の注意点としては、試験管からビーカーへ注ぐときに、流れている間に冷えてしまうということがやはり考えられます。
今回の実験では私は小さい試験管を使わせていますが、それは流れる距離を短くするためです。
長い試験管を使うとやはり試験管の中で冷えて固まってしまって失敗する確率が上がります。
学校の予算とも相談ですが、小さい試験管の購入をオススメします。
また、この実験をやった後にはどうしても試験管に硫黄が付着します。
試験管を洗って硫黄を除去するのではなく、毎年の実験用として硫黄加熱用の試験管として保管しておくのが良いと思います。
一度作ってしまえばこれ以上増やさないという方針が良いでしょう。
まとめ
今回は硫黄の同素体の実験についてまとめました。
今後も手順とポイントをまとめていきたいと考えています。
特に高校1年生の最初の実験に該当しますので、手順も短くてわかりやすく、失敗しても短時間でリカバリー可能なこの実験はぜひオススメです。
何よりも単斜硫黄の針状結晶を上手く作って達成感を得られると今後のモチベーションアップにもつながります。
そして同じ硫黄を使っているのに全く性質の違うゴム状硫黄ができるのも不思議さも実感できます。
カリキュラム上のつながりを考えると実際に高校3年生の有機化学でゴムについて学習しますね。
合成高分子のところで加硫という話もするはずです。
架橋構造を形成してより強固になると。
生徒の興味関心のレベルに応じて、加えた硫黄の割合が30%程度のものがエボナイトだという話を織り交ぜてもいいでしょう。
エボナイト棒は静電気の発生実験でよく使われますし、静電気の実験は中学2年生でやることが多いです。
また、同じ高校化学という枠組みで内容のつながりを考えると、共有結合の後に高分子を少しだけ扱います。
高校1年生の化学基礎では天然高分子と合成高分子、付加重合と縮合重合くらいしか扱いません。
合成高分子の例としてポリエチレンとポリエチレンテレフタレートくらいしか扱いませんが、ゴムも扱うよとつながりを意識させるということも考えられます。
いずれにしても、高校入学後の初期の実験、成功させたいものですね!
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