高校1年生の化学基礎を何単位設定しているか(大半は2単位)によっても余裕の持ち方は違います。
2単位だとどうしても後半の内容が重たくなりがちです。
暗記も計算も増えてきて大変‥
器具は実際に使ってみた方が記憶にも残りますよ
ということで、過去の勤務校で実験をほとんどやらない学校でも、中和滴定の実験だけはみんなで順番にやろうという学校もありました。
もちろん、この実験もこだわり始めると1時間では終わらなくなってしまいます。
この実験の意義
ここまでは化学の世界で使う基本的な内容の学習と定着を意図した実験が多かったと思います。
それは結合だったり、計算の基本だったりです。
今回の実験からはいよいよ本格的に化学反応に注目していくことになります。
本格的というと大げさですが、基本的には化学の反応は酸塩基反応か酸化還元反応のどちらかに大別されるという観点からです。
このため、身の回りの物質を取り上げたり、実際に利用している反応へと結びつけたりすることができるので、化学の凄さやありがたみを身近に感じることができるようになり始める最初の実験かもしれません。
今回も身近に利用しているお酢を利用していきます
実際に実験を行う前に
中和滴定の実験だけはやる、という学校も多いと思います。
教員側が気にするべきことは、他の先生や授業と実験室との兼ね合いではないでしょうか。
特にマンモス校で理科室が1つしかない場合だと、実験を行うタイミングをすり合わせるだけでも一苦労です。
また、薬品の在庫量や器具の点検など、当たり前のことではあるのですが、やるクラスが多いマンモス校ほど気をつけなければいけないことも出てきそうです。
細かいところまできにするならば、ビュレットですりガラス栓のものを使っていない場合に、ゴムリングが切れてしまって締まりが悪くなっているものもあると思います。
器具によってサイズが違うかもしれませんが、こういうものがあると便利かもしれません。大半のものは内径5.8mm、幅1.9mm、外径9.6mmのもので使えると思います(上記リンク参照)。私はホームセンターや東急ハンズ等で探し求めたりもしましたが、Amazonのほうが安かったりします‥
また、1時間で完結させるのか、2時間続きで行うのか、回またぎで2時間をかけるのかなどの違いによってアプローチの仕方も変わってくると思います。
使用する器具と薬品
器具
概ね以下のようになると思います。
- 10mLホールピペット
- 100mLメスフラスコ
- ビュレット
- ビュレット台
- ろうと
- 安全ピペッター
- コニカルビーカー
- ビーカー
薬品
余裕がある学校、生徒の手際がいい学校ではシュウ酸二水和物を使うこともあるでしょう。
- 水酸化ナトリウム水溶液(約)0.10mol/L
- 食酢
- フェノールフタレイン
- (シュウ酸二水和物)
正確に水酸化ナトリウム水溶液の濃度を求めさせるところまで追う場合はぜひ。高校2年生で5単位設定の学校の場合だと理系生徒向けにやる場合がありそうです。
実験操作とポイント
やることは、薄めた食酢を水酸化ナトリウム水溶液で滴定して濃度を求めるだけなのですが、付随する操作で気をつけなければならないことが多いです。
実験操作
① 食酢を適当量ビーカーにとりわける。
② ①の食酢でホールピペットを共洗いする。その後で食酢10mLをメスフラスコに入れる。
安全ピペッターの仕組みを理解するまでに時間を要する場合があります。どのような原理で薬品を吸い上げるのか、液量を調節しているのか理解するだけでも大変な生徒層を指導されているかもしれません。以下のようなピペットポンプ(パイポンプ)を利用している学校もあるのではないでしょうか。
③ 純水をメスフラスコに入れ、100mLちょうどにする。(※入れすぎに注意)
④ ガラス栓をして、よく混ぜ合わせる。
⑤ 0.10mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液の入ったビーカーを持っていき、ビュレットの活栓が閉まっていることを確認してから、ビュレット台を床などの適当な場所に置いて、ろうとを用いて水酸化ナトリウム水溶液をビュレットの中に入れる。
⑥ 水酸化ナトリウム水溶液が入っていたビーカーをビュレットの下に置いて水酸化ナトリウム水溶液を出し、ビュレットの先端まで水酸化ナトリウム水溶液を充填させる。
- 活栓が閉まっていないと薬品がダダ漏れになります。
- 床の上にビュレット台を置かないと背伸びして注ぐ生徒もいます。誤ってビュレット台ごと転倒させてしまう生徒もいます。
- ビュレットの内部に気泡が残ってしまう場合があります。
⑦ ビュレットの目盛りを読んで記録する。
ビュレットの目盛りの向きを意識させる必要があります。また、有効数字を考慮して何桁目まで記録するのかを意識させることも大切です。
⑧ ホールピペットを希釈した食酢で共洗いする。
⑨ 希釈した食酢10mLをコニカルビーカーに入れる。
⑩ フェノールフタレイン液を1~2滴入れ、よく振り混ぜながら水酸化ナトリウム水溶液を滴下する。
ビュレットは片手(利き手)で操作し、もう一方の手でコニカルビーカーを振り続けるのが基本です。初めてビュレットを扱う場合、両手で操作してしまう生徒もいると思いますが、ネジのように一方向に回しすぎて活栓が抜けて薬品がダダ漏れになるということが起こりかねません。
⑪ 色が薄くついたところで滴下を終え、ビュレットの目盛りを読む。
⑫ コニカルビーカー内の液体を棄て、よく水洗いして(最後に蒸留水で洗う)から、⑨~⑪の操作を繰り返す。
ポイント
細かいチェックポイントは操作の項目内で記述しました。
滴定の終点として目指すべき色(うすく赤色が消えずに残ったところ)の見本を作って教卓の上においておくということを私はしています。
実験を1時間で終わらせるために、事前(直前の時間)に教室で水道水を使って練習させている先生もいらっしゃいました。
特に安全ピペッターは触れておくと作業時間の効率化が図れます。
考えられるアレンジ
使用する薬品の変更
実際に見かけた例としては、乳酸菌飲料中の酸の成分を全て乳酸とみなして同様に滴定する事例を見たことがあります。
こちらの方がモチベーションが上がる生徒も増えそうですが、酢酸(CH3COOH)と乳酸(CH3CH(OH)COOH)で構造も違いますし、化学反応式として書きやすそうなのは酢酸かもしれません。
生徒の実態に応じて選択させる(半数はお酢で半数は乳酸菌飲料など)もアリかもしれません。
使用する薬品を追加して厳密に計算させる
入試問題でも出てくるのはシュウ酸二水和物を使用して水酸化ナトリウム水溶液の濃度を厳密に求めさせるというもの。
単純に操作の数が増えてしまうので、生徒実験にある程度慣れていないと厳しそうです。
これもシュウ酸標準溶液を自分で調製させるのか、教員側が用意したものが滴定させるのかによっても生徒の負担感は変わってくるでしょう。
また、この滴定もきちんと3回平均を取らせると、ビュレットに水酸化ナトリウム水溶液を補充する作業も必要になってくるようにも思います。
生徒の実態に応じて適切な目標を設定してあげてください
レポートの項目と誘導
基本的には、滴定によって求めた濃度から、希釈した倍率を考慮し、質量パーセント濃度に変換させるまでが1つの流れだと思います。
その際にどこまで誘導を入れるのか、どこまで厳密な数値を与えて計算させるのか、生徒の実態と作業時間、課題提出の様態にあわせて作り込んでいます。
中堅校で勤務していた際は、比較的誘導を多めにつけていました。
①実験結果で使えるデータの平均値(3回平均など)
②10倍希釈後のお酢中の酢酸のモル濃度
③希釈前の酢酸のモル濃度
④質量パーセント濃度に換算する際の誘導(仮に1Lの酢酸があったとすると‥)
※お酢の密度は1.0g/cm3とする
上位を目指したい進学校では、いきなり④だけにしていたこともあります。当然のようにお酢の密度も1.02g/cm3というデータを与えて有効数字まで考慮した計算をさせていました。
まとめ
ド定番の中和滴定の実験ですが、細かいアレンジはいろいろできそうです。
また、お酢を使ったり、乳酸菌飲料を使ったりとようやく身の回りのモノを使って実験もできるようになってきたため、生徒側も身近に感じられる場面も増えてきた頃だと思います。
この頃になると、もう少しちゃんと勉強しておけばよかった‥という声が生徒側から聞こえてくることも出てきます。
うまく声を拾い、力もつけさせてモチベーションも実力も上げていきたいところですね!
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