サリチル酸のエステルを合成する実験は芳香族と脂肪族を橋渡しする意味で意義が大きいです。
脂肪族化合物について学習してきて、アルコールの酸化やエステルについて乗り越えたと思ったら、芳香族化合物になって考え方が変わってきて調子を落とす生徒も多いです。
今回の実験ではサリチル酸を使って2種類のエステルを作ります。
医薬品への応用で身近にも利用されていますからね!
1つはサリチル酸メチル。
いわゆる消炎鎮痛剤として湿布薬に使われるやつです。
もう1つはアセチルサリチル酸。
こちらは解熱鎮痛剤(いわゆる頭痛薬等)として使われています。
イメージもしやすく実験もやりやすいですね!
やらない手はないですね!収率悪い時があるけれど…
ん?ポイントをおさえれば大丈夫ですよ!
どちらの物質の合成も、実験操作そのものは簡単に合成することができます。
ちょっとしたポイントをおさえることで収率が劇的に改善します。
基本的な実験だからこそ、丁寧にやることではるかに成功率が上昇し、生徒のモチベーションも高められ、机の上の学習の理解度の向上にもつながります!
今回はこのあたりを整理していきます。
この実験の意義
学習している有機化合物が身の回りの様々な分野で利用されていることを学ぶ実験です。
染料としてだけでなく、医薬品の分野でも活躍しています。
生徒の中にも薬学部志望の生徒はいると思います。
医薬品の分野の入り口の実験になりますが、特徴的な臭いもあってわかりやすく、失敗もしにくいです。
基本に忠実な実験だと思います。
実際に実験を行う前に
加熱して振る時間帯がとても多いです。
実際に実験を行うと5分以上試験管を振り続けたり、加熱したりします。
特徴的な変化を示す場面がいくつかありますので、そこを見逃さないようにするだけで収率も劇的に変わってきます。
使用する器具と薬品
サリチル酸メチルの合成
器具
ビーカー(50mL)・試験管(大)・こまごめピペット・ガスバーナー・マッチ
薬品
飽和炭酸水素ナトリウム水溶液・サリチル酸・メタノール・沸騰石・濃硫酸
アセチルサリチル酸の合成
器具
試験管(大)・こまごめピペット・ブフナーろうと・吸引びん・水流ポンプ(アスピレーター)・ろ紙・ガラス棒
薬品
サリチル酸・無水酢酸・濃硫酸
実験操作とポイント
サリチル酸メチルの合成
最初に、50mLビーカーに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を十分量注いで準備しておきます。
(最終的に合成したサリチル酸メチルをこちらに注いで取り出します)
次に天秤でサリチル酸を1.0g量り取り、乾いた試験管にうつします。
サリチル酸の結晶は粉雪のようにフワフワしていますので、計った後にこぼさないように注意しましょう。
この試験管にメタノールを1.5mL加えます。
沸騰石を加えて濃硫酸1.0mLを加えると発熱を伴うようになります。
ここで試験管をよく振りながら、ガスバーナーでしばらく穏やかに加熱します。
手を休めずに、試験管の口を人のいない方を向けて加熱を続けます。
しばらくすると、それまで白濁していた物質が、一度溶けて透明な溶液になります。
この瞬間がポイントで、透明にならないまま終えてしまうとサリチル酸メチルをほとんど回収することはできません。
ここで透明な溶液になった後もまだ加熱を続けると、やがて反応が進行して再び白濁してきます。
この最終的な白濁と、初期の白濁の区別がつかないので、反応が進行したと勘違いする生徒が多いのです。
試験管の内容物が再び2層になっていることがわかれば、十分反応が進行したと考えられます。
ここで試験管の内容物を、炭酸水素ナトリウム水溶液に全て注ぎます。
水と混ざらない油滴状の物質がサリチル酸メチルになります。
臭いを確認すると湿布薬の臭いがするのでよくわかるはずです。
注いだ瞬間は未反応の濃硫酸やサリチル酸が炭酸水素ナトリウム水溶液と反応するためにしばらく気体(二酸化炭素)を発生し続けます。
なぜ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に加えなければならないのかは生徒に考察させてもいいと思います。
この知識は芳香族化合物の最後の実験である有機化合物の分離の実験にもつながるからです。
簡単に解説しておきます。
未反応の強酸は炭酸水素ナトリウムと中和反応をするので除去できます。
未反応のサリチル酸も弱酸の遊離反応を起こして自身がナトリウム塩に変化します。
合成したサリチル酸メチルは炭酸水素ナトリウム水溶液とは反応しません。
以上から十分量の炭酸水素ナトリウム水溶液と反応させれば合成したサリチル酸メチルのみを回収することができるのです。
これは同じアルカリ性の水溶液である水酸化ナトリウム水溶液では不可能です。
水酸化ナトリウム水溶液の場合は以下のことが起こっています。
未反応の硫酸は水酸化ナトリウム水溶液とも中和反応をするので除去できます。
未反応のサリチル酸も中和反応でサリチル酸ナトリウムに変化する。
合成したサリチル酸メチルも残っているフェノール性ーOHの部分が反応してしまい溶解してしまう
知識としては弱酸の遊離で全て説明ができてしまうのですが、酸の強さの順番が大切だという意識は、まだこの時点では生徒の中に芽生えていません。
考察させる場合の生徒への問いかけのしかたの例を挙げてみます。
飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を使った理由を説明しなさい(上級者向け)
水酸化ナトリウム水溶液を使えない理由を説明しなさい(中級者向け)
飽和炭酸水素ナトリウムに注いだ時に未反応の濃硫酸とサリチル酸はどのように変化しますか、また合成したサリチル酸メチルは変化しますか。(初級者向け)
生徒の実態に応じて問題提起しましょう。
実験操作の話に戻りますが、反応性生物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液に注いだ際に、場合によっては水面に油膜のようなものも見えるかもしれません。
ガラス棒を使ってよくまぜることで、サリチル酸メチルの収量が増えることがあります。
基本的にサリチル酸メチルは水より密度が大きいので、白い油状の物質が下に沈みます。
ある程度の量が合成できていれば十分に観察できるはずです。
ただし、上述のポイントにも指定したように、一度無色透明の溶液にならないまま注いでしまうとほとんどサリチル酸メチルが合成されていません。
臭いこそわずかに感じられる場合もおおいですが、視覚的に確認することはできないでしょう。
アセチルサリチル酸の合成
同じように、乾いた試験管にサリチル酸1.0gを量り取ります。
ここに無水酢酸2.0mLをとって加えてよく混合します。
この時点では白濁していますが、ここに濃硫酸をピペット等を使って3適ほど加えてよく振ると、しだに溶けて無色透明になります。
これをさらに振り続けていくと、少しずつアセチルサリチル酸の白色結晶を生じます。
できにくい場合は、ガラス棒で試験管の内壁をこすって結晶化のきっかけを作るとよいでしょう。
十分に結晶が生成したら、試験管の周囲を(必要に応じて)水道水で冷却します。
吸引瓶にブフナーろうとを取り付け、水流ポンプ(アスピレーター)につなぎます。
ブフナーろうとにろ紙を湿らせてのせ、吸引ろ過します。
試験管に残った結晶を水で洗い、洗った水の吸引ろ過して収率を高めます。
何回か水をかけて結晶を洗浄しましょう。
最後は薬さじで結晶をかきおとして回収します。
吸引ろ過のための器具が学校にない場合は、通常のろ過でも問題ないでしょう。
ろ過に時間がかかったり、結晶の洗浄がしにくいなどはあると思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
基本的に混合して反応させるだけなので失敗はしにくいです。
ただし、基本的な操作が多い実験だからこそ、収率を高めることに意識を集中することができます。
サリチル酸メチルの場合はきちんと反応を起こせているか。
アセチルサリチル酸の場合は結晶の回収を丁寧にできているか。
これまでに紹介した有機化学実験とはまた違うテーマでの取り組み方もできそうです。
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