高3の有機化学実験のアニリンの合成で苦労されている方多くないですか?
失敗率高い、収率悪い、反応も時間がかかる….
普通にやろうとするとコツが多い実験ですよね
教科書に載っている方法であれば、還元する金属としてスズを使用すると思います。
しかしこのスズがなかなか塩酸に溶けなくて、時間もかかってしまうわけです。
そして待ちきれずに実験を進めてしまうために収率が極端に悪くなったり、そもそもうまく合成できないことも多いと思います。
なんかいい方法ないのかなぁ….
今回はそんな悩みを一気に解決できる方法を紹介します!
この実験の意義
今回の実験では一切加熱を行いません!
そしてスズの代わりとしてスチールウールを使用します!
動画でも紹介しますが、まずはベンゼンからニトロベンゼンを合成します。
そして、合成したニトロベンゼンを使用してアニリンを合成します。
その際に還元剤としてスズと塩酸を使う方法が一般的です。
化学基礎の酸化還元の単元でも、還元剤としてスズ(2価と4価)が登場します。
しかし、実際に化学反応式なども使って、本当に還元剤としてスズが登場するのはこのタイミング(アニリンの合成)なのです。
少なくない数の学校が高校1年生で化学基礎を履修し、還元剤にスズがあるというのを学習します。
しかし、実際に取り扱うのは2年後の高校3年生です。
生徒側も忘れてしまっていることが多いです。
それ以前にそもそも化学基礎の酸化還元の単元で、酸素が増減する以外に水素の増減も酸化還元だと扱いますが、この水素の増減についても高校3年生のアルコールの酸化の場面でようやく身近に出てくるというのが今のカリキュラムなのです。
化学反応は大きく酸塩基反応と酸化還元反応に分けることができるわけですが、なかなかタイムリーに物質を扱うように配列されていません。
このあたり、少し復習しながら学習をしている学校もあると思います。
そもそも、スズって生徒にとっては全然身近な金属じゃないからイメージしにくいんですよね。
そこで今回は、スズよりはイメージしやすい鉄イオンを使ってニトロベンゼンを還元していきます。
大半の学校では鉄もスズと同じくらい還元剤としては取り扱っていないと思います。
ただし、2価と3価の鉄についてはちょくちょく扱う場面があると思いますのでまだ生徒側もまだやりやすいのではないかと思います。
注意点としては、教科書ではスズを使っていますので、机の上の学習ではスズでの還元で整理しないといけないと思います。
実際に実験を行う前に
今回は、スズの代わりにスチールウールを使用しています。
そのまま置き換えただけなのでスズ約1.0gの代わりとしてスチールウール約1.0g近く加えています。
加えるスチールウールの量に関しては検討の余地がありそうです。
他に先生方に聞いても、インターネットに掲載されているものでも、スズは1.0gのものをよく見かけます。
先生によっては最後に回収する前提で2.0g加えている方もいらっしゃいますね。
自分もこの量でやっていましたが、基本的には全て溶けることなく、最終的には回収して再利用することをやっていた時期もありました。
つまりスズをまるまる1.0gも使わないのです。
時間がかかるので、スズの金属を金槌で叩いて延ばして表面積を増やしたり、一度融かしてドロドロにした後、水中に注ぎ込んで海綿状にするなど工夫をされている先生方がいます。
今回はスチールウールを使っているので自動的に表面積が大きくなっています。
もちろん、スズならば2価から4価になるのですが、鉄だと2価から3価にしかなりません。
このあたりの量的なことも比較できればよいのでしょうが、今回はあえて同量(1.0g)で比較して実験を行っています。
使用する器具と薬品
ニトロベンゼンの合成まで
器具
試験管(特大)・こまごめピペット・ビーカー(300mL)
薬品
ベンゼン(2mL)・濃硝酸(2mL)・濃硫酸(2mL)
アニリンの合成まで
器具
試験管(特大)・こまごめピペット・コニカルビーカー(100mL)・ガラス棒・赤色リトマス紙
薬品
塩酸(6mol/L)・水酸化ナトリウム水溶液(6mol/L)・スチールウール・ジエチルエーテル・氷・さらし粉
実験操作とポイント
ニトロベンゼンの合成まで
基本的な操作方法
ベンゼン2mLと濃硝酸2mLと混合します。
そこに少しずつ、濃硫酸2mLを滴下していくだけです。
生徒には教卓で濃硝酸、濃硫酸を採らせておき、各自の実験台で注意深く混合するという方法で十分かと思います。
発熱はそこそこありますが、火傷するほどではありません。
不安であれば試験管の周りに布を巻いておくといいでしょう。
よく振ることがポイントで、収量を上げるためにもじっくり反応させる必要があると思います。
5分以上は振り続けているイメージです。
混酸の扱いについて
危険性の観点から、教員側で混酸を作っておき、生徒に渡すというスタイルをとっている先生方もいると思います。
またはしっかりと氷水などで冷却しながらゆっくりと混酸を生徒に作らせている先生もいらっしゃると思います。
今回は、先にベンゼンと濃硝酸を加えておき、濃硫酸を少しずつ(一滴ずつピペットで滴下)という方法で実験を行いました。
発熱はありますが、徐々に反応が進んで色が変化していく様子が近くで見られます。
私自身もこの方法は初めてやりましたが、混酸を生徒に注意深く作らせたりするよりも、安全面や収量の点からも良かったような気がしています。
例年だと焦りすぎてほとんと合成できない班もあるのですが、一滴ずつゆっくり滴下していく、という間に反応が進行するようです。
合成したニトロベンゼンを洗浄すること
実は私自身、今回の記事更新する前に一度失敗しています。
ベンゼンと濃硝酸および濃硫酸を混合してニトロベンゼンを合成し、水の入ったビーカーに流し込みますよね。
1回目、予備実験としてお試しで合成したときは、一度水を捨て、新しい水を大量に注ぐことによってニトロベンゼンを洗浄しています。
しかし、2回目にやったとき、この操作をしなかったのです。
もしかすると、混酸を除去しきれていなかったのかもしれません。
アニリンの合成まで同じようにやったつもりだったのですが、さらし粉水溶液に加えても色の変化が1回目の時と様子が違いました。
本来は下の層が青紫色になり、アニリン特有の赤紫色は上のエーテル層にみられるはずなんです。
しかし、洗浄をしなかったとき(失敗した回)では下の層が赤褐色になってしまいました。
手順をよく思い返したとき、この洗浄を忘れていたことに気づきました。
3回目、ニトロベンゼンを合成したときはちゃんと洗浄をしています。
その結果、きちんと上の層(エーテル層)はアニリンとさらし粉の特徴的な赤紫色に呈色しています。
ちょっとしたことかもしれませんが、成功と失敗を分けるポイントだと思っています。
アニリンの合成まで
基本的な操作方法
特大試験管に、スチールウール約1.0gを詰め込みます。
後でも述べますが、このスチールウールの量は検討の余地はあります。
必要に応じてガラス棒で詰め込むといいでしょう。
そこに塩酸を10mL程度加えて溶解します。
当然、水素を発生しながらスチールウールが溶解します。
この反応熱も利用したいので、反応が進行している途中で合成したニトロベンゼンのみをこまごめピペットで吸って滴下します。
あとはひたすら振って反応を待ちます。
そうすると全体が均一になり、オリーブオイルのような色になります。
一層になっていますが、沈殿があったり、液面に未反応のスチールウールが浮いていたりします。
これを避けるようにしてうまく透明な層をピペットで取り出し、コニカルビーカーに移します。
そして塩基性になるまで水酸化ナトリウム水溶液を加えていきます。
水酸化ナトリウム水溶液によって塩基性になっていることは赤色リトマス紙を使って調べてください。
そしてこのアニリンを抽出するために、ジエチルエーテルを加えていきます。
別の試験管にさらし粉水溶液を作っておき、このエーテル層を加えていくと、アニリン特有の赤紫色を呈色します。
これによって無事、アニリンが合成されていることが確認できました。
原理的な話とちょっとしたポイント
3つポイントを記しておきます。
1つ目は合成したニトロベンゼンを、鉄を還元剤として使ってアニリンにするときのそもそもの話。
鉄を塩酸で溶解させると、鉄イオンは2価のものになります。
意外と大切なんですけれど、若い方だとあまり意識していない人も少なくないので。
2つ目はコニカルビーカー内を水酸化ナトリウム水溶液でしっかりと塩基性にする話です。
しっかりと塩基性にしないと、アニリンが遊離しません。
塩酸下では、アニリンはアニリン塩酸塩になっています。
そのため、水層にいってしまうのでスチールウールと塩酸とニトロベンゼンを加えて混ぜた後は一層になってしまっているのです。
そこで弱塩基の遊離によってアニリンを生じさせるためにしっかり塩基性にします。
赤色リトマス紙がしっかり青色に変化していることで確認しましょう。
この状態でエーテルを加えていきます。
3つ目のポイントはこのエーテルの扱いです。
エーテルは揮発しやすいので、事前にコニカルビーカーを氷水につけています。
塩化鉄(Ⅱ)の緑白色の沈殿が大量に生じてしまっていますが、それでも十分に抽出できました。
使ったエーテルは10mLです。
加えた後によく振って抽出させ、塩化鉄を吸わないように注意しながらさらし粉水溶液に加えます。
蒸発皿に取り出させておいて、エーテルを蒸発させてからさらし粉水溶液を滴下するという方法もあると思います。
この実験の最大のポイント
スズを使わずに鉄でニトロベンゼンを還元する
スチールウールを使ってアニリンを合成できるのか。
結論から言えばできます。
これはアニリンとさらし粉水溶液による赤紫色の呈色が確認できたことからも言えます。
量を気にせず、合成できるかできないかについて言えば「できる」と言えそうです。
合成したアニリンを使ってさらに染料の実験に持ち込めるか、と聞かれるとちょっとわかりません。
鉄と塩酸にニトロベンゼンを加えて反応させたものの透明な部分を取り出し、水酸化ナトリウム水溶液を加えました。
このとき、相当量の水酸化鉄(Ⅱ)の沈殿が生じたと考えられます。
緑白色の沈殿がかなり生成しました。
還元剤としてのスチールウールはむしろ過剰な量だったんでしょう。
ビーカーの壁面に付着した水酸化鉄(Ⅱ)の沈殿は、次第に赤褐色に変化していきました。
空気によって酸化され、水酸化鉄(Ⅲ)になったものと考えられます。
このコニカルビーカーの中から果たしてどれだけのアニリンをジエチルエーテルによって抽出できたのか。
スチールウールの量をもう少し調整すると結果も変わってきそうな気がします。
このあたりは要検討だと思います(来年度はスチールウールの量を変えて再検証しようと思います)。
ガスバーナーを使わない
通常であれば、スズと塩酸とニトロベンゼンで反応をさせる際に、ガスバーナーで加熱する方が多いと思います。
あるいは、80℃前後を維持するために、お湯を沸かして試験管を浸して反応を促進させている方もいらっしゃると思います。
しかし、今回の方法では鉄が塩酸に溶ける時に発生する溶解熱を利用しているので、ガスバーナーを一切使いません。
有機物が基本的には可燃性であること、エーテルのような引火性の物質も使うことを考えると、火気を使わないという点に一定のメリットはあると思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
アニリンの合成がうまくいかずに、扱いやすい染料の実験のほうを取り入れている学校は多いと思います。
演示実験だけならば、ベンゼンからニトロベンゼンを経てアニリンの合成までで1時間の半分で済ませてしまう先生や指導案も見かけます。
残りの半分の時間で染料の合成に持ち込む先生もいらっしゃいますが。
今回はアニリンの合成をやりやすくするためにスチールウールを使用しました。
表面積も大きく、よく反応して還元剤としての役割をよく果たしてくれたと思います。
スズを前処理する手間もないので、教員側としても生徒実験をさせるハードルが下がるのではないかと感じています。
是非ためしてみてください!
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