分液ろうとを使って分離していく定番の実験です。
この実験、面倒くさいんですよねぇ…
何のための操作かを意識しないと知識の迷子になりますね
操作手順が多いですし、繰り返し作業もあります。
しかし実験結果はちゃんと出るようになっています。
今回の実験で採用している物質は、最後に定性的に分析することまで想定しているからこその選択です!
分液ろうとの使い方だけは注意ですね
この実験の意義
有機化合物をどうやって取り出すのか(抽出するのか)を考えます。
実際に合成をしても、混合物として得られることが多いのが有機化合物です。
あえて4種類の有機物を混合して1種類ずつ取り出していきます。
原理原則としては弱酸・弱塩基の遊離を使っています。
強酸>カルボン酸>炭酸(二酸化炭素)>フェノール類
この酸の強さの順番の意味を理解できる実験です。
実際に実験を行う前に
似たような操作の繰り返しが多いです。
目的の物質を反応させて抽出するために薬品を加えて混合して取り出す。
これの繰り返しです。
今回の記事作成前に自分で実験もしていますが、自分の手元を確認したら、60分近くなっていました。
分離操作そのものも手順が多いですが、その後に定性分析するところまで行います。
使用する器具と薬品
器具
ビーカー(300mL)・試験管・薬さじ・分液ろうと・コニカルビーカーまたは三角フラスコ(×3)・こまごめピペット・蒸発皿(×3)・ろうと・ろ紙・ガスバーナー・マッチ・銅線・ピンセット
薬品
氷水・ジエチルエーテル・クロロベンゼン・クレゾール・アニリン・サリチル酸・塩酸(2mol/L)・塩酸(6mol/L)・飽和炭酸水素ナトリウム水溶液・水酸化ナトリウム水溶液(2mol/L)・水酸化ナトリウム水溶液(6mol/L)・赤色リトマス紙・青色リトマス紙・塩化鉄(Ⅲ)水溶液・さらし粉水溶液
実験操作とポイント
混合試料の調製
氷水を入れたビーカーに空の試験管を立て、ジエチルエーテル10mLをとって冷やします。
ここにクロロベンゼン、クレゾール、アニリンを各1mL程度加え、サリチル酸も小さじ1~2杯程度加えて溶かします。
以上で混合溶液ができました。
サリチル酸を小さじ1杯ほどしか加えなくても結果はわかりますが、少し多めに加えておいたほうが分離したときに見やすくて、生徒視点で考えるといいかもしれません。
分離操作
生徒にとって分液ろうとの扱いは初めてのはずです。
必ず実験開始前に構造と振り方を説明して、水道水で練習をさせましょう。
上から試料を入れることができ、上からも下からも取り出すことができる仕組みとか。
活栓を使って溶液を分離しますが、どういう目的のときにどのタイミングで活栓を閉めるのかとか。
上部にある孔の存在とか。
孔とずらして栓をして、抑えたまま逆向きに振ることとか。
ガス抜きのしかたとか。
地味に教えることがたくさんあります。
とにかく液漏れをしない、させないための予防策と、ガス抜きのしかたは必須です。
以上を踏まえた上で実験を行っています。
では具体的に手順の説明にうつります。
分液ろうとに調製した混合溶液を入れ、塩酸(2mol/L)を6mL加えて振ります。
この水層を1つ目のコニカルビーカーAに移し、もう1度塩酸を6mL加えて同じ操作をします。
コニカルビーカーAにはアニリンが塩酸と反応してできた「アニリン塩酸塩」が取り出せています
分液ろうとに残ったエーテル層に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を6mL加えて振ります。
注意点は、エーテルの揮発だけでなく、炭酸水素ナトリウムが反応して二酸化炭素を発生するのでこまめにガス抜き操作をすることです!
最も失敗しやすいタイミングはこの操作だと思います。
内圧が高くなりすぎて栓が抜けたり、試料溶液が噴射したりする可能性があります。
生徒としても、最初の分離操作を注意深く行った直後で少しホッとして気を抜きがちです。
絶対に注意させましょう!
振った後は、分液ろうと内の水層を2つ目のコニカルビーカーBに移し、もう1度飽和炭酸水素ナトリウムを6mL加えて同じ操作をします。
コニカルビーカーBには、サリチル酸が炭酸水素ナトリウムと反応してできた「サリチル酸ナトリウム」が取り出せています
分液ろうとに残ったエーテル層に水酸化ナトリウム水溶液(2mol/L)を6mL加えて振ります。
この水層を3つ目のコニカルビーカーCに移し、もう1度水酸化ナトリウム水溶液(2mol/L)を6mL加えて同じ操作をします。
コニカルビーカーCにはクレゾールが水酸化ナトリウム水溶液と反応してできた塩(ナトリウム2-メチルフノラート)が取り出せています
残ったエーテル層を1枚目の蒸発皿Aに移し、エーテルを揮発させます。
蒸発皿Aには最後まで反応しなかったクロロベンゼンが残っています
ここまでで4種類の有機化合物を4箇所に分離できています。
コニカルビーカーCに塩酸(6mol/L)を加えて酸性にします。
最初の操作を濃度が低い水酸化ナトリウム水溶液(2mol/L)で行った理由はここにあります。
いきなり濃度が高い水溶液を使ってしまうと、酸性に戻すのに必要な塩酸の量が増えてしまいます。
塩酸も水酸化ナトリウム水溶液も、必ず2種類の濃度を準備しましょう。
量は青色リトマス紙が赤色になるまでです。
色の変化が確認できたらジエチルエーテルを5mL加えて、洗った分液ろうとに移し、振ります。
今回は水層を取り除き、残ったエーテル層を2枚目の蒸発皿Bに移してエーテルを揮発させます。
コニカルビーカーCの中に含まれていたクレゾールの塩(ナトリウム2-メチルフノラート)を塩酸によってクレゾールに戻して蒸発皿Bの上に取り出しました
コニカルビーカーBに塩酸(6mol/L)を加えて酸性にします。
目安は気泡が発生しなくなるまでで、少しずつ加えていきます。
白色の物質が析出してくるので、この物質をろ過(吸引ろ過でももちろん可)します。
コニカルビーカーBの中に含まれていたサリチル酸ナトリウムを塩酸によってサリチル酸に戻してろ過で取り出しました
コニカルビーカーAに水酸化ナトリウム水溶液(6mol/L)を加えてアルカリ性にします。
量は赤色リトマス紙が青色になるまでです。
色の変化が確認できたらジエチルエーテルを5mL加えて、洗った分液ろうとに移し、振ります。
やはり水層を取り除き、エーテル層を3枚目の蒸発皿Cに移してエーテルを揮発させます。
コニカルビーカーAの中に含まれていたアニリン塩酸塩を水酸化ナトリウム水溶液によってアニリンに戻して蒸発皿Cの上に取り出しました
単離物質の確認
蒸発皿Aに残った物質を、表面が酸化されていない銅線につけてガスバーナーの炎の中に入れて炎の色を確認します。
炎色反応により、塩素を含む物質を取り出せたことが確認できます。
今回の実験で塩素を含む物質は何かというとクロロベンゼンしかありません。
あえてベンゼンでもトルエンでもニトロベンゼンでもなく、クロロベンゼンを採用した理由がこれで、最後に確認するためにどうしても塩素原子の存在が必要だったのです。
蒸発皿Bに残った物質に塩化鉄(Ⅲ)水溶液を滴下し、色の変化を確認します。
色は青紫色に変化します。
このことからフェノール性ーOHの存在が確認できました。
同様にろ過した後のろ紙上に残った物質を少量取り出し、塩化鉄(Ⅲ)水溶液を滴下し、色の変化を確認します。
色は赤紫色に変化します。
やはりフェノール性ーOHの存在が確認できるのですが、この微妙な色の違いから、周囲の官能基の存在も含めて考えると前者がクレゾール、後者がサリチル酸であると区別がつけられます。
最後に、蒸発皿Cに残った物質にさらし粉水溶液を滴下し、色の変化を確認します。
これは有名な反応で、アニリンの識別方法ですね。
蒸発皿Aのクロロベンゼン → 炎色反応で確認する
蒸発皿Bのクレゾール → 塩化鉄(Ⅲ)水溶液の青紫色の呈色反応で確認する
ろ紙上のサリチル酸 → 塩化鉄(Ⅲ)水溶液の赤紫色の呈色反応で確認する
蒸発皿Cのアニリン → さらし粉水溶液の赤紫色の呈色反応で確認する
識別に使用する薬品と、色の変化が重なっているので注意深く整理整理しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
同じような操作の繰り返しのため、自分が今なにをやっているのかを考えながら行わないと実験操作中に迷子になってしまいがちです。
フローチャートを書かせるのも良いでしょう。
なぜ2層に分離するのか、そしてそれぞれの層にはどの有機化合物がどのような状態で存在しているのかを丁寧に追いかけていけば実は簡単です。
コメント