高校1年生で最初の山場は何と言ってもmol計算でしょう。
質量と物質量と体積の変換でまず一苦労‥
その後に化学反応式を絡めた係数比の話もありますね
過不足の問題が絡んできて大崩壊します
今日は薬品の過不足も絡めた化学反応の量的関係の実験を紹介します!
教科書に掲載されている場合もあると思いますし、扱う物質(炭酸カルシウム)の式量がちょうど100で計算もしやすく、生徒にとってはこれくらいがもしかしたらちょうどいいのかもしれません。
個人的にはちょっと物足りないですが実は秀逸な側面もあります(後述)
この実験の意義
化学反応式を立てて係数比を踏まえて薬品の過不足を考える必要性が自然に理解できる
今回の実験では、(生徒にとっては)濃度未知の塩酸に炭酸カルシウムを加えていき、反応が途中で終わった点から逆算して使用した塩酸のモル濃度を求めるというものになります。
それだけで実験の全体像が見える方は見えると思います。
ただし、この実験を最後まで完遂しようと思うと、思っている以上にたくさんの知識が必要になってきます。
- 化学式(組成式)を正しく書けるか
- 化学反応式の生成物(右辺)を正しく書けるか(この時点では弱酸の遊離は知らないので塩化カルシウムが書けない可能性)
- 化学反応式の係数を正しく合わせることができるか
- 反応させる薬品の物質量計算が正しくできるか
- 過不足(炭酸カルシウムがいずれ余る)の処理を正しくできるか
- モル濃度を正しく計算することができるか
など。
個人的にはやる内容が単純すぎていたり、物質量計算が単純すぎる(炭酸カルシウムの式量が100)ため、余りやる意味は薄いのではないかと思っていた時期もありましたが、意外に手こずる生徒は手こずるかもしれません(実験班のメンバーによることも)。
定性実験と定量実験の違いを知る
ここまでの実験では、どんな反応が起こるのかを知るために色の変化や沈殿生成を観察する定性実験が多かったのではないでしょうか。
今回の実験は定量実験になり、少し薬品をこぼした等の操作ミスが実験データを狂わせることになります。
定性実験はとりあえず反応が起きて観察できればある意味OKでしたが、定量実験はそうはいきません。
生徒の実態に応じて、年間の実験計画の中でもどこまで定量実験をさせるのか(させられるのか)、試金石のような実験になるかもしれません。
実際に実験を行う前に
必要に応じて、今回起こる化学反応式や薬品の化学式などを事前に確認する作業を入れたほうがいい生徒層もあるでしょう。
ノーヒントで最初から最後まで出来る生徒層を指導している方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、定性実験と定量実験という言葉の紹介と意味や意義は説明することが(私は)多いかもしれません。
強調することにより、いつも以上に丁寧に実験に取り組んでくれる気がします!
使用する器具と薬品
器具
メスシリンダー・コニカルビ-カー・電子天秤・薬さじ・薬包紙・こまごめピペット
二酸化炭素が発生する際に薬品が多少飛散するので、コニカルビーカーは少し大きめのサイズがいいかもしれません。
試薬
塩酸・炭酸カルシウム
手元の記録だとHClは2mol/L程度のようです
実験操作とポイント
実験操作
操作そのものは単純です。
①メスシリンダーで塩酸を25mL正確に量り取り、コニカルビーカーに移し入れる。
②上の①の塩酸を入れたコニカルビーカー全体の質量を電子天秤で測定する。
③薬包紙と薬さじを使って炭酸カルシウムを1.0(0)g量り取る。
④塩酸が入った②のビーカーに③で量り取った炭酸カルシウムを入れる。
⑤ビーカーをよく振って、反応を完結させる。
⑥反応が終わった後のビーカー全体の質量を測定する。
⑦炭酸カルシウムが溶け切らなくなるまで③~⑥の操作を繰り返し、測定を行う。
以上です。
実験プリント(結果と考察)
生徒のレベルに応じて実験結果をまとめる表の枠を用意しておいたり、濃度未知(実際は2.0mol/L)の塩酸のモル濃度を求める誘導(ヒント)を掲載しておくといいかもしれません。
ノーヒントで全て自力で考えて報告しなさいというものを求めてもいいかもしれません。
生徒にどこまでのものを求めるのか、ポイントがブレないように実験プリントを構築してください。
私は中堅上位~上の下レベルの学校でも結果をまとめる表をつけておいた記憶があります。
何回1.0(0)gの炭酸カルシウムを入れたのかを縦に(少し多めに)準備しておき、横に「加えた炭酸カルシウムの質量」「反応前の全体の質量」「反応後の全体の質量」「発生した二酸化炭素の質量」というようなものを与えていたようです。
ただし、考察については原子量を与えた上で、ノーヒントで塩酸のモル濃度を計算させていました。
考えられるアレンジと塩酸+炭酸カルシウムの組み合わせが優秀な理由
アレンジの仕方はいくつもある
今回は炭酸カルシウムで行いましたが、金属を使用して発生した気体を水上置換法で集めて化学反応式の係数比を確認する方向性に持ち込むパターンも考えられます。
ただし、この場合は二股試験管を使用する、塩酸は反応速度を上げるために6mol/Lの少し濃いものを使用するなどのアレンジは必要かと思います。
標準状態の気体1molの体積が22.4Lであるものの、実験室は25℃程度(エアコンの利き方次第?)だと思われますので、このあたりの気体の体積の補正は必要になってくると思います。
こちらのほうが、化学反応式の係数により着目した結果になると思います。
2価のマグネシウムと3価のアルミニウムを使うなど、ちょっと考えただけでも生徒に考えさせることを増やすことができそうです。
塩酸と炭酸カルシウムの単純な組み合わせが優秀な理由
上記で紹介したアレンジを行うと、実はやることが増えます。
冒頭で以下の作業を自然に考えなければいけないと述べました。
- 化学式(組成式)を正しく書けるか
- 化学反応式の生成物(右辺)を正しく書けるか(この時点では弱酸の遊離は知らないので塩化カルシウムが書けない可能性)
- 化学反応式の係数を正しく合わせることができるか
- 反応させる薬品の物質量計算が正しくできるか
- 過不足(炭酸カルシウムがいずれ余る)の処理を正しくできるか
- モル濃度を正しく計算することができるか
この実験までにどれだけ演習その他で習熟度を上げられているか次第ではありますが、初めての生徒にとっては考えることは実は意外に多いと思っています。
そこで、少しでも作業を単純化することができないかと考え、測定器具が上皿天秤だけで済む(=質量測定だけで完結する)方法という観点で、この実験を採用しています。
仮に実験を失敗してしまったとしても、最初からやり直すのもリカバリーが利きやすいと思います。
操作が単純ですし、準備する器具と試薬も少ないです。
やらなければならないことを頭に入れた上で、丁寧に作業をやり直す(繰り返す)ことに集中できるのではないでしょうか。
まとめ
化学反応の量的関係と過不足までをテーマに取り扱う実験のご紹介でした。
上で述べたように、全て質量測定だけで完結します。
もちろん、生徒の実態に合わせてアレンジを加えたり、追加課題を与えたりして理解を深める工夫はいろいろとできると思います。