(※ボルタ電池は高校教科書からもかなり姿を消しつつあります!)
中学3年生では化学分野でイオンの学習を行いますね。
実験を行うときに困るのがボルタ電池の実験ではないでしょうか。
この実験、結果がまぎらわしいから考察がやりにくいのよねぇ。
亜鉛板から水素が発生してしまう話ですね!
毎年解説をする度に生徒が混乱していくのよねぇ。
実験そのものは、銅板と亜鉛板(2種類の金属)を電解質溶液に浸すことによって電流を発生させる実験です。
小学生の果物電池の自由研究にも取り上げられるくらい原理は簡単です。
学校現場ではビーカーの中に薄い塩酸や硫酸を入れ、銅板と亜鉛板を浸して回路を組んでモーターを回したり電子オルゴールを鳴らせたりすることが多いと思います。
モーターを使う場合は低電流対応のものを使いましょう(壊れやすいので注意)
電流が発生した事実の確認をするだけなら問題はないのですが、反応機構を説明するときに実験結果との矛盾を抱える先生が多いのではないでしょうか。
本来は銅板から水素の気体が発生するはずなのに、実験では亜鉛板のほうからたくさん気体が発生してしまう・・・
生徒には亜鉛が酸に溶ける反応が同時に起こっているからと説明しているけれど。
せっかく「電池」の実験をしているのになんだか釈然としませんよね。
今日はこの問題を解決するための方法を紹介していきます!
公立校で勤務していたときに、市内の研修会でも提案したことがあります。
私自身は10年間の教員生活の中で4回この方法で実験を行って成功しています。
そもそもなぜ銅板から水素が発生するのか
ボルタ電池のメカニズムは(一応)以下の通りということになっています。
かなり古いプリント(教員1年目のときに作ったもの)ですが、当時はこんな説明が多かったと記憶しています。
ほとんどこの説明をしていると思います。
実験をさせる場合でも、このまま同じように準備して作業させている先生も多いと思いますが、このまま実験を行ってしまうと思うように結果が出ません。
というのも、何の工夫もしないと亜鉛板の方から大量に水素が発生してしまいます。
これでは生徒が混乱してしまいます!!
亜鉛板から水素が発生してしまう理由
今では高校化学の教科書から記述が減ってしまいましたが、昔の教科書には理由が説明されていました。
亜鉛板は塩酸に溶解してしまいますし、分極(逆の反応も起こってしまう)も起こっています。
(※そもそも物理的な意味の分極とも違いますし、電気化学的な分極の意味とも違うという話がありますのでご注意下さい!)
古い教科書説明などでは、銅電極が水素で覆われてしまう‥というような説明もあります。
そもそも単純に、亜鉛板が溶けて生じた電子は、銅板まで流れていかなくても、亜鉛板上で直接水素イオンが受け取ってしまったほうが早いじゃないという話です。
実際にそのように説明している先生方もいらっしゃると思います。
現実的には亜鉛板から大量の水素が発生するのに、テスト等では銅板から水素が発生するはずだという解答を求められるため、生徒も混乱してしまうのです。
そのため、学校の先生たちの間でもこのボルタ電池の実験は嫌いという人も多いです。
あえてビーカー等を使わずに果物電池で紹介し、電流の確認だけを行う方もいらっしゃいます。
(後日加筆)
新課程の教科書では少しずつ姿を消している会社もあるようです。コラムで取り扱うなど徐々に扱い方も小さくなっているようにも思います。
亜鉛板からの水素の発生を抑制して銅板からの水素発生を確認する方法
昔の教科書には分極の記述があったとお伝えしましたが、その対処法も記載がありました。
減極剤として過酸化水素を加えるというものです。
これにより、亜鉛板からの水素の発生が見えなくなります。
厳密には、水素の発生を起こさなくしているのではなく、発生した水素を即座に過酸化水素によって酸化して水に変化させることにより、見かけ上水素の発生を見えなくしているということになります。
具体的な薬品の比率は以下の通りです。
学校で調製しやすいようにしてあります。
色々と濃度や比率を変えて試行錯誤した結果、以下のような調製が一番わかりやすかったです。
これらを混ぜるだけです。
当然、混合する時は水に濃塩酸と過酸化水素水を加えて下さい。
濃度は目安として書いていますが、塩酸も揮発性がありますし、過酸化水素水も時間とともに分解していくので、厳密な正確な濃度は誰にもわかりません。
この水溶液を使って生徒に実験をさせた時の動画はこちらです。
動画を見ていただければわかるように、銅板のほうからしきりに水素の気体が発生しているのがわかると思います。
実際は背後にある亜鉛板からも水素の発生は確認できてしまうのですが、発生量は銅板のほうが多かったため、生徒も大きく混乱せずに済みました。
実際に、生徒の実験レポートを採点していても、気体の発生は亜鉛板よりも銅板からのほうが多かったという結果ばかりでした。
注意点としては、銅の表面が過酸化水素水の効果によって溶け出し、水溶液が次第に青色になってしまう点。
銅は塩酸や硫酸には溶けませんが、過酸化水素水があると表面の(主に)酸化銅が溶解してしまいます。
過酸化水素水を加えないと水溶液はここまで青色に変化しません。
このあたりの補足説明は生徒の状況に応じて私も加えていました。
電解水溶液が青色になってしまうことが気になる場合は、事前にやすりなどで銅の表面を磨いてキレイにしておく方法も考えられます!
廃液処理の注意点
過酸化水素水を添加しているため、廃液処理には注意して下さい。
そのまま廃液タンクに流して密閉してしまうと、過酸化水素が分解して発生した酸素により廃液タンクがパンパンに膨らんでしまうこともあります。
これで済めばガス抜きをすればよいのですが、過酸化水素水の量が多すぎると最悪の倍は廃液タンクが破裂します。
そのため、過酸化水素水が分解するまで待つ、廃液タンクのフタを少し開けておく、または適切な酸化剤や触媒で処理してしまうなどが考えられます。
過酸化水素水の処理だけは学校で保有している薬品と相談しながら注意して適切に処理してください!
まとめ
いかがでしたでしょうか。
中学校の理科の教員で、化学が専門ではない方にとってこの実験とその解説は鬼門だったと思います。
しかし、中学校でも絶対に使用する薬品である過酸化水素水を添加するだけで、しっかり反応が見えやすくなるのです。
とはいえ、実際のところはこの減極剤も直接電子をもらっているとか、表面が酸化された銅電極が還元されているという話もあります。
(もっとひどいものだと、亜鉛を水銀メッキしておけば水素が発生しなくなるという教員側の下準備の方法も過去にはあったようです‥)
実感を伴う実験だからこそ、できるだけ理想的な反応を生徒にも見せて理解を促進させたいものですね。
各学校のカリキュラム次第ですが、この実験を2学期に取り扱うことが多いのではないでしょうか。
中高一貫校でなければ生徒も受験に対する意識が相当高まってくる頃です。
だからこそ、わかりにくい内容に対してストレスを感じる生徒も増えてきます。
中学校3年分の学習内容を定着させなければならない時期に、新しく学んぶ内容がわかりにくいと生徒に大きな負荷をかけることになってしまいます。
そんな観点からも、正しいことをわかりやすく伝えられる実験をデザインしていきたいですね!
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