p-フェニルアゾフェノール(p-ヒドロキシアゾベンゼン)の合成実験をやっていますか。
おそらく答えはYesという先生や学校が多いのではないでしょうか。
操作も簡単、失敗しにくい、変化も分かりやすい!
そうだね~、でもまとめで苦労してたりしない?
あ、レポートになると苦労してる生徒、多いです!
あえて2色の染料を合成してみたら?
1種類でも苦労しているのに種類増やすんですか?
アゾ染料の合成の実験は、取り組みやすい上に色の変化も鮮やかなので生徒の記憶にも残りやすい実験です。
そんな実験ですが、構造式や化学反応式を書かせるとなかなか複雑で、実験は好きなのに机の上の勉強になると苦手、という生徒が少なくないと思います。
合成する物質の中にベンゼン環が2つも入ってきてしまいますからね(笑)
芳香族化合物になると、合成経路を暗記するだけで乗り切れてしまう場面も増えてきてしまうので、今回のアゾ染料も暗記で乗り切ろうとする生徒が一定数存在します。
そこであえてもう1種類アゾ染料を合成し、比較することで規則性を考えて、暗記に頼らないで理解するという方法です!
色の違いも比較できるので、苦手意識を解消しつつ生徒の興味関心を高め、机上の勉強も定着度も上げていこうという実験です。
この実験の意義
教科書にあるとおりにp-フェニルアゾフェノールを合成するだけだと、生徒も丸暗記に走りがちです。
「なんでこんなワケのわからない複雑な物質を合成するんだよ、コレしか出てこないんなら丸暗記してやる!」
数年前に担当した生徒の声
という感じです。
そのため、もうひとつくらい似たようなしくみの物質を合成できないか、と考えました。
しくみから理解できれば丸暗記しなくてすみますからね。
そこで発見したのが熊本大学で出題されていた過去問でした。
2-ナフトールを使って同じように実験をすると、きれいな橙赤色の染料を合成することができます。
もちろん、最終的に生じる物質はベンゼン環3つになってしまいますが、反応のしくみは基本的に同じです。
ベンゼン環が3つになると、ショック療法なのか、生徒も諦めて仕組みを考え始めることも多いです(笑)
実際に合成してみると色調の違いもはっきりとわかりますし、2つの物質の合成に共通することは何かを考えるようになります。
ベンゼン環が3つ含まれることになったとしても、今後は高分子の単元につながるのでもっと巨大な分子の構造式を書くことになります。
そういう観点からも、複雑な構造式を書く耐性をつけておく意味で生徒をなれさせるためにももってこいです。
実際に実験を行う前に
今回の実験ではガスバーナーを使用しません。
人によっては塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液を少量とり、ガスバーナーで加熱することによって分解を確認させる方もいらっしゃいますね。
引火しやすいエーテルを使用するわけではないので、生徒の実験の技量と時間との相談になってしまいますが、塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液の分解の確認作業を加えるのはアリだと思います。
私自身もその実験を加えていた時期もあります。
使用する器具と薬品
器具
ビーカー(50mL)×3個・ビーカー(300mL)・試験管・こまごめピペット・ピンセット・ろ紙・新聞紙やペーパータオルなど(乾燥用)
薬品
アニリン・塩酸(6mol/L)・亜硝酸ナトリウム・フェノール・水酸化ナトリウム水溶液(2mol/L)・エタノール・純水・氷・お湯
実験操作とポイント
アニリンのジアゾ化(塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液の調整)
50mLのビーカーにアニリン0.5mLと塩酸10mLを加えて撹拌してアニリン塩酸塩の水溶液をつくります。
当然、白煙を生じるのはアンモニアと塩酸の反応と同じですので、この点を意識させて観察を促してもいいと思います。
発熱も伴いますので、300mLビーカーなど大きめのビーカーに氷水を作っておいてまわりからよく冷却させましょう。
また、熱で分解しやすい物質を合成していきますので、このタイミングで50mLのビーカーの内側に氷をひとかけら加えておくと失敗しにくいです!
次に、別の試験管に亜硝酸ナトリウムを0.4g量り取り、水5mL程度を加えて水溶液を作ります。
こちらも氷水でよく冷やしておき、少しずつアニリン塩酸塩の水溶液に加えていきます。
少し黄色味を帯びますが、沈殿ができなければ問題ありません。
これで塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液ができました。
温まると分解しやすいので、以後の操作まで氷水で冷却を続けて下さい。
教科書では5℃以下となっていますね。
ナトリウムフェノキシドとのジアゾカップリング反応
別の50mLビーカーにフェノールを約0.5mLとり、これに水酸化ナトリウム水溶液を5mL加えてナトリウムフェノキシド水溶液をつくります。
フェノールは融点が40.5℃なので、室温だと凝固してしまっているでしょう。
そのため、予め湯浴して融かしておく必要があります。
ナトリウムフェノキシド水溶液ができたら、これに水を20mL加えて液量を調整します。
2cm角ほどに切ったろ紙をピンセットでつかみ、塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液に浸し、そのまま今調製したナトリウムフェノキシド水溶液に入れます。
ジアゾカップリング反応が進み、黄色に染色されます。
見た目としては短時間で鮮やかな黄色になりますが、水で洗うとすぐ落ちてしまいますので、水溶液が橙色に近づくくらいまで置いておき、染色したほうがキレイに染め上がります。
綿の布のほうが染色しやすいとおっしゃる方もいますが、染色時間にさえ気をつければろ紙でも十分に染まります。
ナトリウム-2-ナフトキシドとのジアゾカップリング反応
基本的な操作はナトリウムフェノキシドの調製と似ています。
新しい50mLビーカーに、2-ナフトールを0.2g量り取り、これにエタノールを少量(1~2mL程度)加えて溶かします。
先生によってはエタノールを加えない方もいらっしゃいますね。
はっきりと溶けるというよりは、なじませるという印象です。
全て溶けるわけではなく、溶け切らなくても次の操作に進行して問題ないです。
ここに水酸化ナトリウム水溶液を10mL加えて溶かします。
この段階では2-ナフトールもほぼ全て溶け切り、ナトリウム-2-ナフトキシド溶液になります。
水を20mLほど加えて水溶液の液量を調整します。
ピンセットをよく洗ってから、同じく2cm角ほどに切ったろ紙をつかんで塩化ベンゼンジアゾニウム水溶液に浸し、次にナトリウム-2-ナフトキシド溶液に入れます。
やはりジアゾカップリング反応が進行し、今度は橙赤色に染め上がります。
こちらも先程と同じく、短時間で橙赤色になりますが、キレイに染め上げるためにはある程度時間が必要です。
片付けるときの注意点
アゾ染料がついたビーカーなどは必ず洗剤やクレンザーを使ってよく洗いましょう!
ちゃんとこすらないとビーカーの壁面に黄色や橙赤色の物質が付着しているのがすぐわかります。
化学物質が残っていると、次に実験する場合に思わぬ事故につながりかねませんので、教員側も返却されたビーカーを1つ残らずチェックしましょう。
生徒は一生懸命洗ったつもりでも、洗剤を流してよく水ですすぐと、化学物質が残っていることはよくあります。
実験レポートでの考察など
生徒の実態に応じて、考察や課題を設定しています。
ベンゼン環を複数含むというところで投げ出してしまう生徒も少なくありません。
合成したオイルオレンジ(1-フェニルアゾ-2-ナフトール)は事前に構造式を提示してしまってもいいかもしれません。
大切なのは、p-フェニルアゾフェノールと比較して、どのようにジアゾカップリング反応が進行しているのかを考えることだと思います。
共通の法則は何かを考えれば、暗記で解決しようとはしなくなるはずです。
また、作業としては同じ作業の繰り返しのため、1-ナフトールでも行っている方もいらっしゃいますね。
その場合は1位にヒドロキシ基(ーOH)が、4位にジアゾ基(ーN=Nー)が結合することになります。
色はもっとハッキリとした赤色です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
実験そのものは問題なく行う生徒でも、実際に構造式を書くと暗記で解決しようとする生徒も多いです。
この点を解消するために、きちんと法則化するために2種類のアゾ染料を合成しました。
色の違いもわかりやすく、失敗も少ないので比較しやすいです。
そしてしくみがわかれば暗記で解決しようとする生徒は減るはずです。
どのようにして生徒の思考がうまくまわるように、授業をデザインするか。
全ては我々にかかっていると思います!
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